疲れの原因は食事にあった

電車やホームでは、疲れ切ってしまい、深くうなだれた会社員を見かける。歩く姿も前屈みで覇気がなく、とぼとぼと家路につく姿が、相当に疲れ切っていると確信させる。この世はストレス社会である。対人ストレスは勿論、超IT社会と言える現代は、PCやスマホに人間が支配され使われているから、テクノストレスにもさらされている。毎日、仕事でも目いっぱい働き、家に帰っても心が休まらないし癒されない。したがって、毎日疲れ切っていて、その疲れは一晩寝ても取れないという人が、多いのは当然かもしれない。

駅の売店やコンビニでは、栄養ドリンクや甘い炭酸飲料を求める会社員を多く見かける。ドラッグストアでは、疲労感が取れると謳われているビタミン剤やサプリメントが大量に売れている。こんなにも、疲れ切った人達がいて、日本のビジネス界は大丈夫なのであろうかと心配になるくらいである。こういうビジネスマンは、疲れないようにと昼はステーキやハンバーグなどのスタミナ食を摂り、夕方は焼き鳥や焼き肉でビールを飲むことが多い。しかし、その結果は思惑とは大きく違って疲れは取れず、翌朝には疲れ切った身体に鞭打って出勤する。

疲れる原因とその疲れが長引く訳は、どうやら精神的なストレスだけではないような気がする。確かに精神的なものが身体に影響するのは間違いないが、現代人がこれだけ疲れる人が多いというのは、肉体的な別の要因がありそうな気がして仕方ない。それで、科学的なエビデンスを示すような過去の実験結果がないかどうか調査してみた。そうすると、実に興味深い実験を試みた例があったのである。それは、明治初期に来日したドイツ人医師ベルツによる、食事による耐久力の実験であり、その結果は我々の常識を完全に覆すものであった。

ベルツが来日してまず驚いたのは、日本人の持久力であった。たいして体力もないように見えるし、痩せて貧弱な身体の日本人が、毎日何十キロも走っているのに、まったく疲れを見せないことである。当時、飛脚は一日100キロを越えて走り回り、車夫が重い人力車を毎日何10キロも引き回る耐久力を持っていた。ベルツはこれだけの体力を持っているのだから、西欧の栄養学に基づく肉食中心でしかも低でんぷん質の食事にしたら、もっと早く走れるに違いないと予想して、人力車の車夫2名に食事の実験をしたのである。毎日、肉食で低でんぷん質のスタミナ食を与え、体重80キロのベルツを乗せて、40㎞の道のりを引かせたのである。

その結果、3日後に2名の車夫は音を上げてしまった。こんな食事では走れないから、肉の量を減らしてくれというのである。それで、元の穀物菜食に戻したら3週間ずっと元気で人力車を引き続けたという。ベルツは、東京から日光まで旅行したことがあるが、午後6時に出発して翌日午前8時に着いた。その際に、馬を使ったのだが、110㎞の間に6度馬を交換し、14時間を要したという。もう一方は1人の人力車に引かせて乗り、なんと10時間で日光に着いたという。1時間に時速11㎞で10時間人力車を引いて走るという超人的な車夫がいたというからすごい話だ。

これは日本人だけの話かと思いきや、米国の大学でも肉食者と穀物菜食者で持久力の対比実験をしたら、瞬発力は肉食が上であるが、持久力は穀物菜食のほうが遥かに高いことが分かったとベルツの著書で紹介されている。これらの実験で明らかなように、現代人の持久力がないのは、食事のせいだということである。現代人がすぐに疲れてしまい、耐久力に乏しいのは肉食中心で炭水化物の少ない食事をしているからであろう。最近の日本人アスリートが、マラソンでは結果を残せていないし、水泳の長距離競泳で勝てないのは、食事のせいではないだろうか。あれほどの圧倒的な強さを誇るケニア人のエリートランナーは、おしなべて高でんぷん質の食事を続けていることが判明し、アスリート界では驚いているという。

明治維新以降の近代栄養学、とりわけ戦後の栄養学は、肉食中心の高蛋白で低炭水化物の食事が健康に良いものだというのが定説だった。ごく最近までも、美容の為には炭水化物ダイエットが良いというまことしやかな説が信じられていた。ところが、ごく最先端の科学的な栄養学では、それが人間の根源的なエネルギーを引き出せないということが判明してきたのである。肉を沢山食べて、でんぷん質をあまり食べないという食事は、持久力を引き出せず、すぐに疲れてしまうという欠点を露呈したのである。ましてや、肉食中心の食事を続けると、腸内環境が悪化して免疫力が低下することも解ってきた。現代日本人の異常なほどの疲れの原因が、肉食と低炭水化物の食事にあったのである。健康とスタミナ維持のためにも、穀物菜食の伝統的な和食に戻るべきではないだろうか。

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